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国会議員の政治資金パーティー券を巡る政治資金規正法及び判例の解説

2017.07.08

国会議員の政治資金パーティー券を巡る
政治資金規正法及び判例の解説

はじめに                   

週間文春(2017年7月2日号)が衆議院議員下村博文(東京11区選出)の後援会である「博友会」の「パーティー券入金状況」と題する文書を入手した。その文書には、 
➀2013年「9月23日 学校 加計学園 1,000,000」
➁2014年「10月10日 学校 山中一郎 加計学園 1,000,000」
の記載があるが、しかし「博友会」の収支報告書にはその旨の記載がないことから「加計学園から闇献金200万円」と報道した。

これに対して、下村博文議員は「2013年も2014年も合計11の個人及び企業(1社)から加計学園の秘書室長が事務所を訪問して各20万円以下のパーティー券代を預かったので現金を持参しただけであり、加計学園がパー券を購入したものではない。従って「加計学園から闇献金200万円」は事実に反すると反論した。

当政治資金センターとしては、この真偽について論評する立場にないが、この機会に、政治資金パーティー券を巡る政治資金規正法の解説をして関係者の理解を深めたい。

(1) 政治資金パーティーの定義

「政治資金パーティーとは対価を徴収して行われる催物で、当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額を当該催物を開催した者又はその者以外の者の政治活動に関し支出することとされているもの」と定義されている(法8条の二)寄付金は無償の対価の交付であるのに対して、パー券の購入は何らかの「債務の履行である」ある点で区別されている。(法4条3行)

 

(2)20万を超える対価の収支報告書への記載義務

政治団体の会計責任者は、毎年12月31日現在で、当該政治団体のその年の収入、支出その他の事項で次に掲げるものを記載した報告書を、第6条第1項各号の区分に応じ当該各号に掲げる都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に提出することになっている。(法12条1項)

この収支報告書には次の事項を記載する定めである

特定パーティー(当該政治資金パーティーの収入の金額が千万円以上であるもの)においては、これらのパーティーごとに、その名称、開催年月日、開催場所及び対価に係る収入の金額並びに対価の支払をした者の数(パーティーの概要である)
 一の政治資金パーティーの対価に係る収入(報告書に記載すべき収入があつた年の前年以前における収入を含む。)のうち、同一の者からの政治資金パーティーの対価の支払で、その金額の合計額が二十万円を超えるものについては、その年における対価の支払について、当該対価の支払をした者の氏名、住所及び職業並びに当該対価の支払に係る収入の金額及び年月日(20万円を超える支払をした者の氏名、住所、職業、金額、支払日時を収支報パーティー券の購入が「寄付」にあたるのは,「社会通念上,その対価的意義を 著しく損なう支出であると評価される場合に限られる」などと限定解釈告書に記載する義務がある)
 一の政治資金パーティーの対価に係る収入のうち、同一の者によって対価の支払のあっせんをされたもので、その金額の合計額が二十万円を超えるものについては、その年における対価の支払のあっせんについて、当該対価の支払のあっせんをした者の氏名、住所及び職業並びに当該対価の支払のあっせんに係る収入の金額、これを集めた期間及びこれが当該政治団体に提供された年月日(20万円を超えるのパーティー券のあっせんをした者の氏名、住所、職業、支払日時を収支報告書に記載する義務がある)

○ いずれも20万円を超えるとあるので20万円以下であれば収支報告書に記載義務がない。パー券のあっせんをした者も同様である。

○ この記載義務は一つの政治資金パーティーに関して20万円を超える場合であって、仮にその政治家が年間に3回政治資金パーティーをして、それを合算して50万円購入していても、一つの政治資金パーティーで20万円以下であれば記載義務がない。

 

(3)あっせんとは

「あっせん」については法第10条第3項で「特定の政治団体のために政治資金パーティーの対価として支払われる金銭等を集めて、これを当該政治団体に提供することをいう」と定義している。刑法にあっせん収賄罪などの定義なども考慮すると「他の者へのパー券の購入の依頼、仲介、集金など」に該当すれば、政治資金規正法のあっせん行為に該当すると思われる。

単に何名かのパーティー券の対価を政治団体に届けるだけの場合は「使者」であってあっせんに該当しないが、「パーティー券の購入の依頼、仲介した者」が「依頼、仲介した者」の代金を集めて、持参した場合は規正法のあっせんに該当すると思われる。

 

(4)パー券の購入についての不記載又は虚偽記入に関しての罰則について

20万円を超えるパーティーの購入した者がいるのに、それを記載しなかった者(法25条2項)又は20万円を購入した者の氏名、職業、金額、住所等に関して「虚偽」の記載した者(法25条3項)も5年以下の禁固刑又は100万円以下の罰金に処せられる。20万円を超えるパー券のあっせん行為をしているのにそれを記載しない場合も同罪になる。

 

(5)20万円を超える場合はもちろん、20万円以下でも会計帳簿には記載義務がある。

第九条  政治団体の会計責任者は、会計帳簿を備え、これに当該政治団体に係る次に掲げる事項を記載しなければならない。

○政治資金パーティーの対価に係る収入については、政治資金パーティーごとに、その名称、開催年月日、開催場所及び対価に係る収入の金額並びに対価の支払をした者の氏名、住所及び職業(対価の支払をした者が団体である場合には、その名称、主たる事務所の所在地及び代表者の氏名。)並びに当該対価の支払に係る収入の金額及び年月日(政治資金パーティーの対価を払った者の氏名、住所、職業、金額、日時を記載する義務がある。金額が20万以下でも全て記載することが要求されている。あっせんを受けて支払った者の氏名、住所、職業、金額、日時も記載が要求される)
○ 政治資金パーティーの対価に係る収入のうち対価の支払のあっせんをされたものについては、政治資金パーティーごとに、当該対価の支払のあっせんをした者の氏名、住所及び職業並びに当該対価の支払のあっせんに係る収入の金額、これを集めた期間及びこれが当該政治団体に提供された年月日(あっせん者についての氏名、住所、職業、金額等を会計帳簿に記載する義務があることを規定している)

 

(6)会計帳簿に記載しない場合又は虚偽の記入をした場合の罰則

第24条  次の各号の一に該当する者(会社、政治団体その他の団体(以下この章において「団体」という。)にあつては、その役職員又は構成員として当該違反行為をした者)は、三年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

 第九条の規定に違反して、・・・・第九条第一項の会計帳簿に記載すべき事項の記載をせず、若しくはこれに虚偽の記入をした者

○ 会計帳簿には誰から、いつ、いくらの金額のパー券を購入してもらったのにそれを記載しないと不記載罪になり、事実と違う者からパー券を購入を受けたとか記載する場合は虚偽記載罪(虚偽記入罪)が成立する。

 

(7)パー券の量的規制

第22条の8  政治資金パーティーを開催する者は、一の政治資金パーティーにつき、同一の者から、150円を超えて、当該政治資金パーティーの対価の支払を受けてはならない。

2(略)

3  何人も、政治資金パーティーの対価の支払をする場合において、一の政治資金パーティーにつき、150万円を超えて、当該政治資金パーティーの対価の支払をしてはならない。

一つの政治資金パーティーに最150万円を超えて購入してはならないし、又はそれを受けてはならない。

罰則(第26条の2 において3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する)

 

(8) 第3者名義での購入の禁止及び対価の受領の禁止(22条の8第4項)

22条の8第4項( 第22条の6第1項(何人も、本人の名義以外の名義又は匿名で、政治資金パーティーの対価の支払に関する寄附をしてはならない。)及び第3項 3( 何人も、第一項の規定に違反してされる政治資金パーティーの対価を受けてはならない。)

罰則( 第26条の2 3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する)。

 〇実際に起訴され有罪になった事件(平成21年7月17日東京地裁判決)

  西松建設が国会議員の政治資金パーティーにおいて真実は西松建設会社の支払であるのに本人以外の名義(2つの政治団体名義)でパーティーの対価を平成18年6月に合計180万円及び同年8月に160万円を払った場合は法26条の6違反で有罪になった。

 

(9)参加予定しないパー券の購入とその対価の受領

 ○逐条解説「政治資金規正法」

(平成11年3月1日3版発行 自治省選挙部政治資金課編)において「債務の履行としてなされるもの以外のものは全て寄付となるので、対価関係にあるものでも対価相当分を越えて金銭、物品その他の財産上の利益の供与、又は交付がある場合はその越える部分は寄付と解される」と上記の解説がなされ「例えば政治資金パーティー券の購入代は通常はパーティー出席のための対価と考えられるが、その代金が社会通念上の対価を越えるものである場合は当該越える部分は寄付として取り扱われることになる」と説明されている (55頁)

○東京地裁判例(平成27年5月 28日・第一生命株主代表訴訟事件)

パーティー券の購入が「寄付」にあたるのは,「社会通念上,その対価的意義を著しく損なう 支出であると評価される場合に限られる」と判示。なおこの判例の解釈は下記高裁の事件で変更された。

○東京高裁(平成28年7月19日・第一生命株主代表訴訟控訴審判決)

「パーティー券の購入代金の支払は,その代金額が政治資金パーティーへの出席のための対価と認められる限り,「寄附」には当たらないが,パーティー券の購入代金の支払実態,当該パーティー券に係る政治資金パーティーの実態,パーティー券の金額と開催される政治資金パーティーの規模,内容との釣り合い等に照らして,社会通念上,それ自体が政治資金パーティー出席のための対価の支払とは評価できない場合にはその支払額全部が,また,その支払額が対価と評価できる額を超過する場合にはその超過部分が「寄附」に当たるというべきである」という原則を述べ),「寄附」をすること及びこれを受けることのいずれも処罰の対象としていることに照らすと,同法は,この犯罪類型を刑法上の必要的共犯のうち対向犯として定めていると解される。そうすると,「寄附」をし,これを受けることは,刑法の賄賂罪(197条以下)における賄賂の供与と収受になぞらえることができるところ,賄賂罪において,公務員が賄賂性を認識していなければ同罪が成立しないのと同様,政治資金パーティーへの出席を予定しないことを認識しながらそのパーティー券を購入したとしても,主催者がこれを認識しておらず,購入されたパーティー券の数に見合った内容の態様で政治資金パーティーを開催した場合には,主催者側においては,出席を予定していない者が支払ったパーティー券の購入代金を含め,当該政治資金パーティーの対価を受けたことにならざるを得ないから,その場合には,出席を予定しないパーティー券購入者が支払った購入代金についても,主催者においては「寄附」に当たるものということはできないと解される。・・・・購入されたパーティー券に出席を予定しないものが含まれていることを主催者が個別的に把握し,その寄附性を認識していない限り,パーティー券購入者についても,「寄附」に当たるものということはできないというほかない」ないと判示した。この判決でもパー券の主催者側に出席が予定されていない認識があれば、本罪が成立する可能性があることを示唆している。

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